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「持続的な瞬間ーオクスフォード経験記」 (その8) 

「持続的な瞬間ーオクスフォード経験記」 その8 (私の愛国主義)

  昨年10月より約一年間、東大からの派遣留学生としてオクスフォード大に留学した。留学中、気分が臥せた時に読み入ったのは、およそ一世紀前に同じくイギリスに留学した夏目漱石の日記であった。
  後に「余は英国紳士の間にあって狼群に伍する一匹のむく犬のごとく、あわれな生活を営みたり」と回顧するほど、漱石の留学は苦闘に満ちたものであった。漱石の苦悶は、繊細な知性によってイギリス社会における個人の自由と高い公民性を感じ取りながら、それとの比較において日本社会の精神的未熟さを認識せざるえない経験であるとともに、かかる西洋への憧憬から、ある意味それがゆえに自らを復古的な日本主義者にも変質しかねない複雑かつ危うい自己溶解の過程であったと思われる。しかし漱石は「独立した一個の日本人」として、挫折感がもたらした自己再定位の機会を正面から引き受けた。そしてその葛藤は、私自身の留学における愛国心の形成へとつながった。
  漱石の留学時代の日記に垣間見えるのは、自国の美点を意識化しようとする愛国心ではなく、自国の遅れや弱点をこそ深く認識し、否応なくそこに根を張らざるをえない日本人として、真摯にその遅れを直視する反省的な視点のあり様である。
  1902年、漱石の滞英中に日英同盟が結ばれている。列強の仲間入りを果たしたと喜ぶ本国の様子を、漱石は「あたかも貧人が富家と縁組を取結びたる喜しさの余り鐘太鼓を叩きて村中かけ廻るやうなもの」と冷たい。イギリスと日本における市民社会の差異を明敏に認識する漱石は、「脱亜」に成功した日本がそのまま「入欧」させてもらえる保証などどこにもないと感じていたのではないか。
  「夜、下宿の三階にてつくづく日本の前途を考う。日本は真面目ならざるべからず。日本人の眼はより大ならざるべからず」(『漱石日記』) 。漱石の日本への言葉は、他者によって誘導されたものではなく、自己の苦悶と内省を通じてにじみ出てくるものだからこそ、本物の響きをもっている。そして、このような主体的な思考と経験を通じて達した自国への愛着、愛国心こそ、自分の内面に自信や誇りをもたらし、自国社会にとって本当に必要なことを考えるための力になるのではないだろうか。
  「(日本の)未来は如何あるべきか。自ら得意になる勿れ。自ら棄る勿れ。…内を虚にして大呼する勿れ。真面目に考えよ。誠実に語れ。摯実に行え。汝の現今に播く種は、やがて汝の収べき未来となって現れるべし。」(『漱石日記』)
  ロンドンの下宿で書きとめられた漱石の日本への思いは、留学中の私の胸にも響くものがあった。その私自身も、イギリスにおける市民的自由の伝統や国民の高い政治意識に感心し、また生活実感としても、住宅環境や都市整備、雇用や労働条件、知的・身体障害者への支援などにおいて、欧米諸国の底力を感じた。
  本当に日本を良くするには、日本の美しさを強調するより、むしろ自国の遅れや弱点をこそ直視し、それを一つずつ摯実に克服していく態度が必要ではないか。日本の前途へ向けた漱石の言葉は、誰から押し付けられたわけでもない、私自身の愛国心でもある。

(原文は朝日新聞「私の視点」欄に投稿・不採用となったもの)

※引用は、『私の個人主義ほか』(中公クラシックス)、『漱石日記』、『漱石書簡集』(ともに岩波文庫)による。
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by akai1127ohi | 2007-07-13 19:57 | 「持続的な瞬間」 | Comments(0)
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