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Modest Comments on contenporary politics by Akai OHI (Twitter:@AkaiOHI)。
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平野久美子『テレサ・テンが見た夢』(ちくま文庫・2015年)

近く台湾行きの予定もあり、平野久美子『テレサ・テンが見た夢』(ちくま文庫・2015年)を拝読。大変面白く読んだので、感想を書いておきます。

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「テレサ・テン」は日本進出に際してつけられた名前で、台湾や中国本土では鄧麗君(デンリーチュン)で知られている。

たとえば Google の検索バーに「鄧」と入れると、「鄧小平」と並んで「鄧麗君」が出てくる。鄧麗君は「国民党の広告塔」として中国本土では禁止されたが、中国でもテープが出回り、「白天聴老鄧、晩上聴小鄧(昼は鄧小平を聴き、夜は鄧麗君を聴く)」と言われたそうです。

中台両岸で政治体制を問わずこれほど顕彰されている人物は、実に孫文と「両岸歌姫」こと鄧麗君ぐらいだろう。

「私が、日本でよく知られた台湾出身の歌手テレサ・テンを、華人社会のスター『鄧麗君』に置き直して評伝を書いたのは、日本の近隣諸国の近現代史がその人生に投影されていると思ったからだ」(平野、p20)。

平野久美子『テレサ・テンが見た夢』は、この意図の通り、「鄧麗君」を描くことで、台湾、香港、中国本土、日本の戦後史を交錯させながら描出することに成功している。

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本書はテレサ・テンの実像に迫るものだが、むしろ、テレサ・テンが否応なく関わり、時に翻弄され、時に参画した、同時代の政治との関わりが私には興味深かった。

たとえば、1995年のテレサ・テン(鄧麗君)の葬儀。棺は中華民国の青天白日旗と国民党旗で覆われ、扁額は李登輝の書。そして、金宝山墓園の鄧麗君の墓に奉納された巨岩は宋楚瑜によるもの。国民党が鄧麗君を「取り込もう」としたのがよくわかる。

また、本書に出てくる多くの「反共歌」から、戦後の中国本土と台湾が、朝鮮半島における北朝鮮と韓国とアナロジカルに、いかに「冷戦思考」に深く刻まれていたかを、あらためて再認識する。

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たとえば、台湾を表す「自由中国」という呼称。なるほどねー、と言う印象。そして、その言葉の「冷戦的アナクロニズム」と、ポスト冷戦以降、中国共産党の独裁体制と台湾の民主化を踏まえれば、皮肉なまでに思いもかけない「アクチュアリティ」を感じもする。

国民党に対する評価は難しく、たとえば孫文の時代が「(進歩的)ブルジョア民主主義政党」だったとすれば、蒋介石の時代は「反共政党」であろう。

本書を読んで初めて知ったが、国民党が国共内戦に敗れて1949年に台湾に避難した時、蒋介石にとって台湾は一時的な避難場所にすぎず、実に1970年代中旬まで、国民党は「大陸反攻」、「中国奪還」を本気で掲げていた。それゆえ、軍事力を増強する反面、台湾の民生は二の次で、「犬が去って豚が来た」といわれる所以である。

とはいえ、その後、時代は大きく変わった。
今や、中国共産党は依然一党独裁を続ける反面、台湾では李登輝時代の国民党が、民進党が競合する形で民主化を成し遂げた。1980年以降の政治的達成を振り返った時、中国共産党よりも台湾の国民党の方が、胸を張れるのは誰も否定できない事実と思える。

ちなみに、2005年、国民党主席の連戦と胡錦濤が握手した時、姜尚中が「第三次国共合作」と言ってさすがのワーディングと膝を打った。もちろん、第一次&第二次は「日本」に対抗するために、第三次は(台湾独立を掲げる)「民進党」に対抗するための、という皮肉?です。

かつて、冷戦イデオロギーの時代の「自由中国」は、単なる「反共中国」の意味にすぎなかった。しかし、現在、「民主化を成し遂げた台湾」が、「一党独裁の中国」に対して「自由中国」を突きつけるとすれば、それは、もはや単に「反共」ではなく、中国の体制をめぐる深刻な自己反省を迫る意味合いも含むものであろう。

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このような戦後東アジア史において、鄧麗君のスタンスはといえば、やはり歌手なので歌が第一。イデオロギーとは距離をとりながら、「中華民国」の国威発揚の広告塔に祭り上げられることには一抹の距離感を感じているようでもある。しかし、時代状況ゆえにそれに翻弄されざるをえない。とはいえ、1989年天安門事件に大きな衝撃を受け、中国共産党政権に対する強い反感は拭いがたく、それゆえ、1990年代に中国共産党批判の文脈での歌を歌って、それでもって「中華民国」のアイコンと「誤解」されることはあえて厭わない。そんななスタンスと感じる。

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日本での「テレサ・テン」の芸能活動は、「男性に従順で、辛抱強く、優しく、愛くるしい女性というコマーシャルパッケージされたテレサ像がひとり歩きしていた」(p46)といい、私も幼心にそんなイメージがあった。

しかし、この本で、1989年5月、天安門での学生の抗議行動が続く中、香港での民主化支援集会で「私の家は山の向こう(我的家在山的那一邊)」を歌う鄧麗君を知る。ジーンズですっぴん、「反対軍管」と書かれたゼッケン、「民主万歳」と書かれたはちまき。「テレサ・テン」とは明らかに違う、もう一人の歌手を知る思いがする。



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by akai1127ohi | 2015-04-29 03:58 | 散文 | Comments(0)
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